建築研究資料第144号, 147号の各種係数の利用について

はじめに

に示されている, 長周期・長時間地震動の作成手法に関し,

  1. 特定の地点*1での長周期地震動を推定する改良経験式の係数
  2. 三大平野*2の任意地点での長周期地震動を推定する改良経験式の係数
  3. 改良経験式による解放工学的基盤上の平均的なサイト係数
  4. を提供します。これらの値を用いることで, 資料144, 資料147に示される改良経験式に基づいた長周期地震動(加速度応答スペクトルや時刻歴波形)を求めることができます。

    また,

  5. 全係数の一括ダウンロード
  6. で, 上記係数を一括でダウンロードすることが出来ます。

*1: 特定の地点とは, 以下に示す改良経験式(回帰式)の係数を求める際に使用した地震記録が得られた観測点が該当します。これらの観測点は, stations144147.txt の中に掲載されています。ファイル内は1行が1観測点に該当し, 観測点コード, 北緯, 東経, 都道府県を区別する数値, 都道府県, 市区町村, cj, cwj, C1j, Cw1j の有無(有: 1, 無: 0), 解析に用いた海溝型地震の数, 解析に用いた地殻内地震の数, の順に並んでいます。cj, cwj, Cj1, Cw1jについては, 後述する「(b)観測地点固有のサイト係数」を参照ください。

*2: 三大平野には, 関東平野の1都6県(島嶼部は除く), 濃尾平野の愛知県, 岐阜県, 大阪平野の大阪府, 京都府, 兵庫県, 奈良県が該当します。

1. 特定の地点での長周期地震動を推定する改良経験式

減衰定数5%の加速度応答スペクトルの値を推定する回帰式[資料147, 式2.1-1]と, 位相特性を定める群遅延時間の平均値や分散を推定する回帰式[資料147, 式2.1-2, 2.1-3]により構成されます。

減衰定数5%の加速度応答スペクトルの値を推定する回帰式

log10SA(T)=a1(T)Mw+a2(T)Mw2+be(T)R+bw(T)R- log10(Rp(T)+d(T)100.5Mw)+c0(T)+cj(T)+cwj(T) ... [資料147, 式2.1-1]

位相特性を定める群遅延時間の平均値と分散を推定する回帰式

μtgr(f)=Atgr1(f)M01/3+Be1(f)X+Bw1(f)X+C1j(f)+Cw1j(f) ... [資料147, 式2.1-2]

σtgr2(f)=Atgr2(f)M01/3+Be2(f)X+Bw2(f)X+C2j(f)+Cw2j(f) ... [資料147, 式2.1-3]

ここで,

SA(T): 推定対象である特定地点の地表面での減衰定数5%加速度応答スペクトル

μtgr(f): 群遅延時間の平均値

σtgr2(f): 群遅延時間の分散

で, これらの値を推定するための右辺の係数には, (a)全国共通の回帰係数と, (b)観測地点固有のサイト係数があります。詳しくは, 資料144(2章), 資料147(2章)を参照下さい。

(a) 全国共通の回帰係数

全国共通の回帰係数は, [資料147, 式2.1-1]のa1(T), a2(T), be(T), bw(T), p(T), d(T), c0(T), [資料147, 式2.1-2]のAtgr1(f), Be1(f), Bw1(f), [資料147, 式2.1-3]のAtgr2(f), Be2(f), Bw2(f)が該当します。これらの係数は, 以下の2種類のファイルで提供されます。

  1. 減衰定数5%の加速度応答スペクトルの回帰式における係数 a1(T), a2(T), be(T), bw(T), p(T), d(T), c0(T) および回帰誤差e(T) [ファイル中のラベルはa1, a2, be, bw, p, d, c0, err]
  2. 群遅延時間の平均値の回帰式における係数Atgr1(f), Be1(f), Bw1(f)と回帰誤差err1(f) [ファイル中のラベルは A1, Be1, Bw1, err1[ に及び分散の回帰式における係数 Atgr2(f), Be2(f), Bw2(f) と回帰誤差err2(f) [ファイル中のラベルは A2, Be2, Bw2, err2]
  • 減衰定数5%の加速度応答スペクトルの回帰係数(sa_abpdc.txt)
  • 群遅延時間の平均と分散の回帰係数(tgr_ab.txt)

(b) 観測地点固有のサイト係数

各観測地点固有のサイト係数は, [資料147, 式2.1-1]の cj(T), cwj(T)), [資料147, 式2.1-2]のC1j(f), Cw1j(f), [資料147, 式2.1-3]のC2j(f), Cw2j(f)が該当します。各観測点の地表における地震動を推定する際に用います。工学的基盤での地震動を推定する場合は, 後述の「解放工学的基盤上の平均的なサイト係数」を用いて, 資料に示す方法により変換してください。係数は, サイトごとに別ファイルになっています。

ここでは各観測地点の地表におけるサイト係数を示します。工学的基盤でのサイト係数の値については, 後述の「3. 改良経験式による解放工学的基盤上の平均的なサイト係数」を用いて資料に示す方法により変換してください。

  1. 減衰定数5%の加速度応答スペクトルのサイト増幅係数cj(T), cwj(T)
    • ファイル名は, sa_cj_CODE.txtの形式です。 CODEは観測地点記号で, stations_merged.txtに示される記号に一致します。3文字のCODE(例: 12E, AOM)は気象庁観測点, 6文字(例: AIC001, YMTH01)は(独)防災科学技術研究所のK-NETやkik-netの観測点, 7文字(例: AIC004B, EHM008B)は移設されたK-NETの観測点, KGINは工学院大学です。
    • ここではサイト増幅率を10cj(T), 10cwj(T) [ファイル中のラベル 10^cj, 10^cwj] とし, その値を収録しています。cwj(T)が与えられていない場合は値として1.0が入っています。
  2. 群遅延時間に関するサイト係数
    • ファイル名は, tgr_cj_CODE.txtの形式です。 CODEは, 上記と同じです。
    • 係数は, 群遅延時間の平均値μtgrに関するサイト係数C1j(f)とCw1j(f) [ファイル中のラベル C1j, Cw1j], 群遅延時間の分散σ2tgrに関するサイト係数C2j(f)とCw2j(f) [ファイル中のラベル C2j, Cw2j] の順に並んでいます。Cw1j(f)が与えられていない場合は値として0.0が入ります。Cw1j(f)が0.0なら, Cw2j(f)も0.0です。

下記のリンクから、任意地点の近傍にある観測点固有のサイト係数を検索できます。検索方法には, (i)地点名による検索, (ii)緯度・経度による検索, の2通りがあります。

2. 三大平野の任意地点での長周期地震動を推定する改良経験式

三大平野の任意地点での長周期地震動を推定する改良経験式は, 地震基盤上面から工学的基盤面までの堆積層伝播時間Tz

Tz=Σ(Hi/Vsi) ... [資料147,式2.2-1]

を変数として, 減衰定数5%の加速度応答スペクトルの地盤増幅率([資料147,式2.1-1]のcj(T) やcwj(T))を推定する回帰式(資料147,式2.2-2)と, 位相特性を定める群遅延時間の平均値のサイト係数(資料147,式2.1-2のC1j(f) やCw1j(f))や群遅延時間の分散のサイト係数(資料147,式2.1-3のC2j(f) やCw2j(f))を推定する回帰式(資料147,式2.2-3, 2.2-4)により構成されます。

減衰定数5%の加速度応答スペクトルの地盤増幅率を推定する回帰式

log10C(T)=a(T)+b(T)Tz ... [資料147,式2.2-2]

位相特性を定める群遅延時間の平均値のサイト係数を推定する回帰式

cμtgr(T)=a1(T)+b1(T)Tz ... [資料147,式2.2-3]

位相特性を定める群遅延時間の標準偏差のサイト係数を推定する回帰式

cσtgr(T)=a2(T)+b2(T)Tz ... [資料147,式2.2-4]

ここでTzは, 地震調査研究推進本部(2012)が公開している約1km間隔の三次元地下構造モデルに基づいて, 対象地点直下の地下構造モデルより算出される地震基盤上面から工学的基盤面上面までを鉛直伝播するS波の伝播時間で, 堆積層のせん断波速度を用いて次式で定義される地盤の固有周期の1/4に相当する指標です。他の変数, 係数の意味については, 資料144(2章)を参照下さい。

内閣府の地下構造モデル(2013)に基づく係数は別ページで公開しています。

資料147の図2.2-16~18に示すように, [資料147,式2.2-2]の回帰式は横軸(線形軸)をTz , 縦軸(対数軸)を地盤増幅率とした場合に, 折れ曲げ点をTz =Tlim(T)としたバイリニア型で回帰されます。ただし, Tz の増加に伴う地盤増幅率の増加には頭打ちが見られるため, Tzの上限値を関東平野Tz =3.35秒, 濃尾平野1.65秒, 大阪平野2.93秒と定め, これら以上のTz の地点の地盤増幅率や群遅延時間の平均値, 標準偏差は一定となるようにしています。この部分を含めると, これらの式はトリリニア型で表現されています。一方, [資料147,式2.2-3], [資料147,式2.2-4]の回帰式は, 資料147の図2.2-30~35に示すように, 横軸(線形軸)をTz , 縦軸(対数軸)を群遅延時間の平均値や標準偏差として直線で回帰されます。ただし, 地盤増幅率と同様にTz の増加に伴う群遅延時間の平均値, 標準偏差の増加には頭打ちが見られるため, Tzの上限値を定め(関東平野Tz =3.35秒, 濃尾平野1.65秒, 大阪平野2.93秒), これら以上のTz の地点の群遅延時間の平均値や標準偏差は一定となるようにしています。

なお関東平野では, Tz≥1 秒の観測点でのC(T), cμtgr(T), cσtgr(T)は太平洋プレートで発生する地震に対する値であり, フィリピン海プレートで発生する地震に対する値(Cp(T), cpμtgr(T), cpσtgr(T))は太平洋プレートに発生する地震に対する値から

Cp(T)=C(T)*rat(T) ... [関係式1]

cpμtgr(T)=cμtgr(T)+diff1(T) ... [関係式2]

cpσtgr(T)=cσtgr(T)+diff2(T) ... [関係式3]

で与えられます。ここで,

rat(T): 太平洋プレートで発生する地震の増幅率に対するフィリピン海プレートで発生する地震の増幅率の比(資料147, 図2.2-23に示すように, 東京都内と東京都内以外で異なった値となる)

diff1(T): 太平洋プレートで発生する地震の群遅延時間の平均値のサイト係数とフィリピン海プレートで発生する地震の群遅延時間の平均値のサイト係数の差

diff2(T): 太平洋プレートで発生する地震の群遅延時間の標準偏差のサイト係数とフィリピン海プレートで発生する地震の群遅延時間の標準偏差のサイト係数の差

  1. 関東, 濃尾, 大阪平野におけるTzによる地盤増幅率に関わる係数の回帰式[資料147,式2.2-2]における係数a(T), b(T)
    • ファイル名は, tz_sa_kanto/nobi/osaka.txtです。
    • 資料147,式2.2-2のTz≤Tlim(T)の場合の係数 a 及び b/4 (ファイル中のラベル a1, b1/4), Tlim(T)≤Tz≤Tmaxの場合の係数 a 及び b/4 (ファイル中のラベル a2, b2/4), Tlim(T)*4 (ファイル中のラベル tc*4)の順に並んでいます。
    • 関東平野の北緯34.5度-35.4度、東経139.5度-140.15度の範囲内において、Tzが 0.75秒以下の場合は周期1秒以上でTzを+1.5秒してください。また、大阪平野の北緯34.6度-34.75度、東経135.0度-135.35度 の範囲内において、Tzが1.2秒以上の場合は周期4秒以上でTzを+0.3秒してください。
  2. 関東, 濃尾, 大阪平野におけるTzによる群遅延時間の回帰式[資料147,式2.2-3, 2.2-4]における係数a1(T), b1(T), a2(T), b2(T)
    • ファイル名は, tz_tgr_kanto/nobi/osaka.txtです。
    • 群遅延時間の平均に関わる[資料147,式2.2-3]の係数 a1 及び b1/4 (ファイル中のラベルA1, B1/4), 群遅延時間の標準偏差に関わる[資料147,式2.2-4]の係数a2 及び b2/4 (ファイル中のラベルA2, B2/4) の順に並んでいます。
    • 関東平野の北緯34.5度-35.4度、東経139.5度-140.15度の範囲内 において、Tzが0.75秒以下の場合は周期1秒以上でTzを+1.5秒してください。また、大阪平野の北緯34.6度-34.75度、東経135.0度 -135.35度の範囲内において、Tzが1.2秒以上の場合は周期1秒以上でTzを+0.3秒してください。
  3. フィリピン海プレートの地震に対する関東平野の地盤増幅率の補正に関わる関係式1における係数rat(T)
    • ファイル名は, tz_sa_ps.txtです。
    • 東京(2.75≤Tz≤3.5)及びその他の地域での地盤増幅率の補正係数と標準偏差 [ファイル中のラベルtokyo.rat, tokyo.std, other.rat, other.std]の順に並んでいます。
  4. フィリピン海プレートの地震に対する関東平野の群遅延時間の補正に関わる関係式2,3における係数diff1(T), diff2(T)
    • ファイル名は, tz_tgr_ps.txtです。
    • 東京(2.75≤Tz≤3.5)での群遅延時間の平均及び標準偏差の補正係数と標準偏差 [ファイル中のラベルdiff1, std1, diff2, std2]の順に並んでいます。
関東平野 地盤増幅率 tz_sa_kanto.txt
群遅延時間 tz_tgr_kanto.txt
濃尾平野 地盤増幅率 tz_sa_nobi.txt
群遅延時間 tz_tgr_nobi.txt
大阪平野 地盤増幅率 tz_sa_osaka.txt
群遅延時間 tz_tgr_osaka.txt
フィリピン海プレート地震の関東平野の補正係数 地盤増幅率 tz_sa_ps.txt
群遅延時間 tz_tgr_ps.txt

ここで公開している係数は地震本部の地下構造モデル(2012)に基づく係数であり、他の地下構造モデルには適用できませんのでご注意ください。

内閣府の地下構造モデル(2013)に基づく係数

3. 改良経験式による解放工学的基盤上の平均的なサイト係数

上記の「1. 特定の地点での長周期地震動を推定する改良経験式の係数」, 「2. 三大平野の任意地点での長周期地震動を推定する改良経験式の係数」 は, 地表で観測された地震記録を用いた分析結果に基づいて作成されており, これらの改良経験式に基づいて得られる値は地表面でのものになります。表層地盤の増幅の影響を個別に考慮することが出来るように, 工学的基盤相当と考えられる観測点を選び, それらの地点の平均的な地盤増幅率と群遅延時間の平均値や標準偏差を求め, 一般的な解放工学的基盤における平均的なサイト係数として定めています。

資料144の2章5節「工学的基盤のパラメータ・地震動と建物入力地震動について」で述べている, 工学的基盤の地盤増幅率とサイト係数は, 周期1秒以上については地震基盤から工学的基盤への増幅は地震基盤から地表面への増幅と等しいとの仮定に基づいており, 周期0.1~1.0秒の帯域についての平均的サイト増幅係数と群遅延時間に関するサイト係数は, 別途求めています。これらの係数は, 平均的サイト増幅係数はsa_cj_eng.txt, 群遅延時間に関するサイト係数はtgr_cj_eng.txtで与えられます。これら周期1秒以下の工学的基盤での係数と地表面での係数を組み合わせて工 学的基盤での地震動を推定する場合は, 資料144の2章5節, 図2.5-5に示されるようなマッチングフィルターを通して合成する必要があります。

  1. 解放工学的基盤での平均的サイト増幅係数(サイト増幅率10cj(T)として収録)。以下の係数が一つのファイルに収録されています。
    • ファイル名は, sa_cj_eng.txtです。
    • 減衰定数5%の加速度応答スペクトル - サイト増幅係数の平均値と標準偏差[ファイル内のラベルcj(ave), cj(std)]の順で並んでいます。
  2. 解放工学的基盤での地震動の群遅延時間に関する平均的サイト係数
    • ファイル名は, tgr_cj_eng.txtです。
    • 群遅延時間の平均値 μtgrの平均値と標準偏差 [ファイル内のラベルはC1j(ave), C1j(ave)], サイト係数標準偏差σtgrの平均値と標準偏差 [ファイル内のラベルはC2j(ave), C2j(std)]の順に並んでいます。

4. 全係数の一括ダウンロード

これまで説明してきた, すべての係数ファイルを含むzipファイルをダウンロードできます。容量は約5MBです。

2015年12月21日にTz関連の係数を追加しています。

謝辞

ここで示した係数の作成では, 様々な機関から資料等をご提供いただきました。ここに記して感謝申し上げる次第です。

  • K-NET, KiK-net強震観測記録、及び観測地点情報は独立行政法人防災科学技術研究所のHPにおける関連情報を用いました。
  • 気象庁87型強震計, 同95型強震計記録, および観測地点情報については, 気象庁が頒布している87型強震計, 同95型強震計データのCD-ROMの収録データによりました。
  • 工学院大学新宿本校内設置地震計による観測データを用いました。

問い合せ先

建築研究所構造研究グループ 中川(hiroto-n@kenken.go.jp)

文献等